「早く大きくなれ」は矛盾する言葉?「ゆっくり大きく」が適切な言葉
トヨタグループのデンソー会長である岡部弘氏が、ある講演会でこんな話をしていた。
「企業人は、変革期といえば、革命のような大きな変革を一時期に実施するものと思いがちだ。だが、そんな事が必要な時期はめったにない。少しずつ変えていって、五年、十年たてば全く違う姿になっているのが望ましい」
ここにはトヨタ流改善のあり方が見事に表現されている。
トヨタ生産方式を実践しているある企業N社の工場は、太陽光発電によって必要な電力のほとんど全てをまかなっている。おかげで二酸化炭素削減など環境面ではずいぶんと先へ行っている。
N社は最初から太陽光発電による物づくりを目指していたわけではない。環境に対する関心は高かったし、太陽光発電の採用も考えた事はあった。しかし、当時はベルトコンベアーによる大量生産を行っていたために、必要な電力のごくわずかしかまかなう事が出来なかった。太陽光発電には、宣伝効果以上の意味はないと、見送られる事となった。
ところが、N社は、大量生産から多品種限量生産へ移行する過程で、ベルトコンベアーを廃棄、消費電力のきわめて少ないラインを構築する事に成功した。自社が理想とする物づくりを目指して改善を重ねた結果だ。気がつくと工場で必要な電力は太陽光発電で全てまかなえるレベルにまで来ていた。そこに至って初めて太陽光発電の導入に踏み切ることとなったのである。
N社の物づくりががらりと変わったさまは、まさに「少しずつ変えていって、何年語ったときに全く違う姿になっていた」典型といえる。
トヨタ流改善は、こうした「改善が改善を呼ぶ」姿が最も望ましい。仕事の方式だけではなく、例えば人財も、ゆっくり育つ人が大きく育つ人だと認識している。