キャスター:ヨーコ・ゼッターランド
アテネ五輪まであとわずかです。バレーボールで五輪に焦点をあわせた生活を長く続けていたせいか、4年でワンサイクルのパターンから、いまだ抜け出せずにいる私です。現役を退いて5年が過ぎようとしているのに不思議なものですよね。でも一生のうちでそう何度も「これだ!」というものに出会うことはありませんし、全身全霊をかけて取り組むことができるものがあることは、本当に幸せなことだと思っています。
個人競技では世界新記録を出すよりも五輪で金メダルをとることの方が難しい、と言われ、団体競技、特にボールゲームにおいては五輪で優勝するより、予選を勝ちぬいて出場することの方が難しいと言われます。「五輪の舞台は大きなプレッシャーがあるんじゃないですか?」と聞かれますが、予選を戦い抜いてきた時点で、相当の度胸がつくもの…。かえって五輪の方が気負うことなく戦えたりします。もっともこれは選手だけかもしれませんが(笑い)。男子も女子も厳しい戦いを強いられたアジア予選でした。UAEでのアウエー戦を終えて、ホームに戻る山本監督のインタビューを聞いて胸がぐっと詰まった人も多かったでしょう。
サッカーはW杯という単独種目ながら五輪をもしのぐ規模の大会があります。もしかしたらプレーをする側も見る側も「五輪もさることながらW杯」と考える人も少なくないかもしれません。日韓W杯の現場で取材をしていた時、そのとてつもないイベントにただただ驚かされるばかりでした。それと同時にワールドカップとは最高のサッカー技術、そしてサッカーアイデンティティを限りなく追求していく場なのではないかと思いました。では五輪は何が違うのか…。五輪は自己アイデンティティの発見と自己の確立ということがより強く、色濃く現れる大会なのではないでしょうか。自分はどこから来て、どこへ向かって進むのか。日本人であるとは世界の中でどういうことなのか。勝負とは違った時限の空間を体験できるところかもしれません。
日本から出場する選手のほとんどが80年代生まれ。どちらかといえばスポーツは楽しく、をモットーに育ってきたであろう世代が五輪のピッチ上で何を見出してくるか、楽しみです。せっかく五輪の舞台に立つのだから勝負にこだわるだけじゃもったいない。参加することに意議を見い出すのであればどう戦うか、でそれは大きく変わってくるのではないでしょうか。もちろん「金」めざして、というのが前提になることは変わりません。ガンバレ、日本!!