Ⅱ(40)
オトンには「事務所」と呼んでいる場所があった。ちょっと事務所に行って来るわ、とか、今日は事務所に行っとるけん、チビも街の方まで出て来いなどと言っていた。
一度、その「事務所」という所に連れて行かれたことがあった。歓楽街の外れにある雑居ビルの一室だった。
入り口を開けると、背の高い歓楽植物の鉢植えがいくつも置いてある。それは、この場所のためにあるのではなく、どこかに運ぶために集めてあるようだった。
「あら?なーさんのところのぼっちゃん?」
派手なおばさんとスリー・ピースを着たおじさんがボクの周りを取り囲んだ。机が二、三個、簡単に並べてあるだけで、ここがなんの事務所なのか、小学生でなくてもさっぱり見当がつかないと思う。
「やっぱり、よう似とるねぇ」
髪をツルッルに剃(そ)った、身体のものすごく大きい男の人がボクの肩を掴み、顔を覗きこむように大きな身体をかがめた。肩に乗ったその人の大きな手を横目で見ると、大きな指に指輪をしている、のではなく指輪の柄の入れ墨を彫っているのだ。
身体が固まって低温の汗が出た。
「そうね。やっぱり似とるかねぇ」
オトンはうれしそうな声を出しながら、はにかんでいた。
「やっぱ、親子やねぇ。瓜ふたつたい」
威圧感のあるルックスの人々が満面の微笑を携えながら、顔を並べてボクを覗き込む。
理屈ではなく、肌で感じる恐怖でビビッてしまったボクは、最後までひと言も喋られなかった。人をそんな恐怖に縮れる所。それが、オトンの「事務所」だった。
父亲有一个叫“事务所”的地方。想到事务所去,他就说:今天不能去事务所,你孩子也不能到那条街的那个地方去。
也曾经有一次带我去过那个“事务所”的地方。那是在花花世界之外杂居大楼的一个房间。
打开门,看到在那里放着几个高高的赏叶植物的盆栽。这些并不是为了这个地方而有的,是为了搬运到什么地方去而集中到这里的。
“哎呀!这是贵家的男孩吗?”
华丽的阿姨和穿着三套装的大叔把我团团围住。只有二、三个桌子简单地摆放在那里,这是什么事务所呢?即便是小学生也丝毫看不出来。
“长的模样还是很一样的。”
把头发剃得光光的、身体非常高大的男人抓着我的肩,弯下身来看着我的脸。用侧目看了看扶在我肩上的那人的大手,在大手指上带有指环,不仅这样,在指环上面还雕刻有刺青。
身体很硬肌肉成块,向外冒着低温度的汗。
“是的,长得确实很相近。”
父亲发出了高兴的声音,很害臊似的。
“当然了,父亲关系,哪能不像呢?”
有威压之感容貌的他们露出了满面的笑容,把脸拼并在一起看着我。
也没有什么理由,从皮肤就感受到的恐怖而害羞的我,到最后一句话也没有说。这里就是让人陷入那样恐怖的地方。这就是所谓的父亲的“事务所”。