yamoli66 |
2012-06-20 20:29 |
『東京タワー』の翻訳(278)
Ⅸ(23)
オカンの遺影を抱えていたオトンがゆっくりと立ち上がった。みんな座ったまま、オトンを見ている。オトンは立ち上がっても、しばらくなにも言わなかった。じっと目を閉じてうつむいたまま、どこからか言葉を探しているようだった。 「……。栄子と……私は…………」 そこまで言うと、オトンはなにも言わなくなった。泣いていた。今まで一度も涙を見せなかったオトンが、言葉に詰まって泣いていた。 ボクは生まれて初めてオトンが泣いているところを見た。 願はくは花のもとにて春死なむ その如月の望月のころ 病院から引き揚げたオカンの荷物。その中にあった便箋の最初の一枚にオカンが書き残していた西行法師の和歌。 いつ頃、これを書いていたのだろうか。自分が死ぬこと。それはおそらく、入院する前から感じていたことだと思う。 歌われている季節とさほど違わずして、オカンは花のもと、春に死んでいった。 なにを望む人でもなかったけれど、往生の季節は西行のように、望みがあったのかもしれない。 父亲抱着母亲的遗像慢慢地站了起来。大家都坐着一动不动看着父亲。尽管父亲站了起来,但很久也没说什么。一直闭着眼睛低着头,正在想着从哪里说起。 “……。荣子和……我……” 也只说到这些,其实父亲并没有说出什么。他开始哭了起来。我至今一次也没有见过父亲这样哭过,哽咽着说话而哭着。 这是我出生以来第一次看到父亲的哭。 我的愿望是在春天的日子死在花下 在月满的时候。 这首歌是从母亲留在医院的遗物中一信笺中的第一页找到的,是母亲抄写下的西行法师的和歌。 这是什么时候写下的呢?是自己在要死的时候写的还是在入院之前就感觉到自己的病状而写下的呢? 和所歌唱的季节几乎没有差别,母亲是在春天去世,是死在了花的下边。 虽然人并没有什么希望,死亡的季节就像西行那样,也许会有希望的。 |
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