yamoli66 |
2012-05-19 20:51 |
『東京タワー』の翻訳(259)
Ⅸ(4) 「そうやったん。のど渇いとったんやね。苦しいんやろ、心配せんでよかよ。オレもオトンも来とるんやから」 オカンはじっとボクを見ている。一生懸命なにか言おうとしている。顔をしかめて、苦しさと痛みと戦いながら、くちびるを働かしてなにか伝えようとしている。 声を出そうとしても、声にならない。ボクはオカンの手を強く握りしめ、もう片方の手のひらでオカンのお腹を撫でた。 「なんて言いよるん?どうしたん?」 呼吸が引きつる。言いたいことが言えずに歯痒いのか、息が苦しいのか、オカンは眉間に深く皺(しわ)を刻んで、貫(つらぬ)くような瞳でボクを見つめながら、必死に口を働かしている。 「オカン……!なんて言いよるん!?」 ボクはもっと強くオカンの手を握って顔を近づけた。 訴えかけるような目で、最後の力を振り絞り、オカンになにか言おうとしていた。小さく働くことしかできないくちびる。音にならない言葉。オカンの中では、これ以上にない大声で、オカンはボクに、最後になにか言おうとしている。 でも、それが、なにを言いたいのかボクにはわからなかった。今際の際にオカンが伝えたかった言葉。ボクはそれを聞き取ってあげることができなかった。そんなボクの様子を見てオカンは、息も絶え絶えに瞳と表情と働かなくないそうなくちびるで、あきらめることなく、なにか、ボクに残そうとしている。 ごめん、オカン。なんて言いよるかわからんのよ。でも、わかるよ。わかるけん。オカンの言いたいことはようわかる。心配しなさんな。もう、オレのことは心配せんでよか。こげな、自分が死にかけよる時なのにから、人の心配ばっかりしよってから、少しは自分の心配せんね。わかっとるけん。わかっとるよ。もう、そげ苦しいとにから、なにもいわんでよかたい。オカン……。 「わかった。そうね……。わかったけん。心配せんでよかよ……。オカン……」 ボクはオカンに言った。 オカンはそれを聞くと、くちびるを働かそうとするのをやめた。 そして、ボクはじっと見た。きれいな目で見た。ボクは少し安心してオカンに笑顔を見せた。オトンもオカンに顔を近づけて名前を呼びながら、笑って見せた。 大丈夫やけん、オカン。心配しなさんな。ボクは心の中から、オカンに語りかけた。 “就这样做吧。因为嗓子太干了。难受吗?不必担心。我和父亲都来了。” 母亲一直盯着我,想要拼命说什么。皱着眉头,和难受的痛苦作斗争,嘴唇在动着还是想要说什么。 即便是发出声音了,但还是没有听声。我用劲握着母亲的手,用另一只手抚着母亲的肚子。 “想说什么?要做什么?” 呼吸变僵了。想说的说不出来,是牙痛还是喘息困难?母亲在眉间留下很深的皱纹。用几乎要通孔的眼睛看着我,拼命地张开嘴。 “母亲,要说什么呢?” 我更有力地握着母亲的手贴近她的脸。 用诉说的目光,母亲竭尽全力用最后的力量想对我说什么。嘴唇一点也不能动了,是没有声音的语言。对母亲来说再也没有什么声音了,母亲在最后究竟要对我说什么呢? 可是,究竟要说什么呢?我也不明白。现在这个时候母亲不能传达给的语言,我却也无法听到。看到我那种模样,母亲则用绝气的瞳孔、表情以及不能动的嘴唇,却不能给我表达清楚,要究竟给我留下什么呢? 对不起母亲。你到底要说什么我却不明白。可是,我现在却是明白的,我明白了。母亲要说的话已经明白了。不必再担心了。对我也不用再操心了。在这个自己将要死的时候,还只是担心别人的事,一点也不操心自己的事。我已经明白了,明白了。为了解除痛苦,什么也不用说了。母亲…… “我明白了。就那样……已经明白了,不用操心了……母亲……” 我对母亲这样说。 母亲听了这些以后,就停止了要动的嘴唇。 然后就一直看着我,用那美丽的眼光看着我。我稍微安心一点让母亲看到了我的笑脸。父亲也贴近母亲的脸呼叫着母亲的名字,让母亲看到笑容。 没有关系了,母亲。不要再操心了。从我的心中给母亲说话。
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