『東京タワー』の翻訳(256)
Ⅸ(1) あの日の夜のことは、どうしても思い出せないのです。 記憶の道筋を辿って、抜け落ちたその部分の前後から呼び起こそうとしても、まるで思い出すことができない。 オカンのベッドの枕元にある小さな白い照明と、間隔の緩(ゆる)やかになった心電図の音と緑色の明かり。 その光だけがちらちらする病室で、ボクはオカンの右手を、オトンはオカンの左手を握りしめたまま、ずっと眠り続けるオカンの顔を見ていた。 ものすごく熱くて、むくんだ手。ボクとオトンはなにも喋らなかった。煙草を喫いにも行かなかった。 その姿勢のまま、ただ、じっと、オカンの消え入りそうな寝息を聞いていた。 それが夜の何時くらいだったのだろう。いつにも増して、とても静かな夜で、いつにもなく深い香りの夜だったけれど、三人が一緒にいることで、寂しくも心細くもない夜だった。もうすぐ、どこかに行ってしまうのかもしれないオカンの横顔を眺めながら、悲しさの隣で、少しだけ温かいものがじんわりと温もりを持っていた。 そして、それから、ボクとオトンがいつ、どうやって眠りに落ちたのか、どうやっても思い出すことができない。 ただ、その時の眠りは徹夜の続いたこの数日、いや、この数ヶ月、もしかしたら、今までに経験のないくらい深くて安らかなものだったと思う。 まるでどこか、この世ではない場所に抜け出して、さざ波を遠くに聞きながら揺り竜で眠ったようだった。果てのない海に沈んでいくように柔らかで心地良かった。 那天晚上的事情,怎么也回想不起来了。 追溯记忆的轨迹,从遗漏部分的前后传唤出来。几乎想象不出来了。 那天晚上在母亲病床的头部有一个较小的白色的照明,在这不远处有缓和的心电图仪的声音和绿色的光线。 也只有这样的光线在病房内一闪一闪,我握着母亲的右手,父亲握着母亲的左手,就这样一直望着母亲睡觉的脸。 握着那非常烫的浮肿的手,我和父亲什么也没有说。父亲也没有到病房外去抽烟。 状态就这样保持着,也只是一直那样听着母亲要昏迷过去睡眠中的喘息。 这样是到了晚上的几点吧。总是在增加着、那么安静的夜晚,是那么沉香的夜晚,三个人在一起,不寂寞心神安定的夜晚。眼看着还弄不清楚马上要到哪里去的母亲的侧脸,除去一点可怜外,还一直保持着一点温情。 就这样,这之后我和父亲不知在什么时间怎样沉睡下去的,真是怎么也回忆不起来了。 但是,这个时候的睡眠是彻夜连续几日,不,这几个月,也许到此还没有经历过的那么深度安宁的休息。 这几乎就是来到远离这个世界的什么地方,听着涟漪远去的声音,像在摇床上深度睡眠那样。在没有边际的大海上要下沉很柔和的良好的感受。 |