yamoli66 |
2012-03-03 21:46 |
『東京タワー』の翻訳(217)
Ⅶ(33)
夜、千葉の外れで仕事が終わり、高速道路で東京に向かったが、クリスマスのディズニーランドに押し寄せたカップルたちの渋滞にはまり込んで家に着いたのは夜中だった。 ドアを開けるとキッチンにまだオカンは座っていた。残った料理と空になったワインのボイル。そして、その横には踊るサンタクロースが二体並んでいた。 「どうしたん?それ」 「えのもと君も、おんなじもの買うてきてくれたんよ」 まったく同じサンタクロースの人形がオカンの方を向いてふたりで踊っている。どうやら、色んな人にこの人形がおもしろいという話をしていたらしい。ラッピングされていた包帯紙の柄までおなんじだ。 オカンはニコニコしながら、そのサンタクロースの踊りをしつこいくらいにずっと眺めていた。 「どうなん?まだ悪いん?」 「いけんねぇ……。食べ物が奥に入っていかん。吐いてしまう……。苦しいでいけん」 この数ヶ月でオカンはだいぶ痩せたようだった。 「ガンかもしれんねぇ……。やっぱり、移転しとったんかもしれん……」 「そんなこともあるもんか。手術でちゃんと取っとるんやし、病院にもこんだけ行きよるんやから、心配せんでええ。そんなん何回もガンになりゃあせん」 なぐさめではなく、ボクは本当にそう思っていた。そしてもう「ガン」という言葉を聞くのも嫌だった。 「……。自分の身体のことは、自分でわかっとるよ……」 そう言ったオカンの口からは薬と胃の臭いがした。 「辛気臭い話ばっかりしなさんな。年があけたらちゃんと診てもらい」 年末。ボクは年越しをロンドンで送るつもりでイギリスへ発(た)った。正月に家に居ないことも、この七年で初めてだった。 数の子、黒煮豆、蕪の三杯酢。割烹着(かっぽうぎ)を着ておせちの支度をしているオカンを横目に家の扉を閉める。前々から決めていたこの旅行も、この時はなぜか後ろ髪を引かれるような気分で気乗りがしなかった。成田に向かう途中、何度も憂鬱になり、これから離陸するというのに気持ちはロンドンではなく笹塚に引きずられていた。 晚上,在千叶县的最远处做完了工作,在高速路上朝东京奔去。情侣们蜂拥而至迪斯尼乐园,使道路堵塞,到家已经很晚了。 开门后看到母亲还坐在厨房,那里有剩下的饭菜和空瓶子,而且在旁边并列跳动着的圣诞老人有两个。 “这是怎么回事?” “夏本也买了这个相同的东西。” 完全相同的两个圣诞老人玩偶面对母亲在舞动着,这是怎么回事?各种人都在说这个玩偶很有趣。甚至连外包装纸的把手都完全一样。 母亲边笑着,边专心地盯着圣诞老人的动作。 “怎么回事?又恶化了?” “也不是……,吃东西咽不下去了,全吐了出来,真难受呀。” 这几个月来,母亲像是很瘦了。 “也许是癌恶化了,说不定已经转移了。” “没有那回事。做手术已经完全摘除了,不是总去医院吗,不用担心,不会再重复几次癌了。” 这并不是安慰,我真是这样想的。而且我已经很讨厌癌这个词了。 “……,自己身体的事情,只有自己才知道。” 从说完这些话的母亲的嘴里散发出药和胃的苦味。 “不要说些心烦难听的话,等过了年再到医院诊断。” 年底,我要去英国在伦敦过年。在正月不能在家,这也是七年中的第一次。 干青鱼子、黑煮豆、油菜等,我从侧面看到穿着厨衣的母亲正在准备过年的菜,关上了家门。很早就决定了这次旅行,但在这个时候不知为什么牵肠挂肚的心态涌上心头。在去成田机场的途中,也有了几次忧愁,现在都已经起飞了,但心绪并没有飞向伦敦,而被引回了笹塚的家。 |
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